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浦和地方裁判所 昭和52年(ワ)40号 判決

一 原告が本件発明の特許権者であること並びに本件発明の特許請求の範囲の記載(発明の要旨)、構成及び作用効果がいずれも原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二 まず、被告が(イ)号物件を製造、販売又は使用した事実の有無について検討する。

1 被告が、昭和四八年夏から秋ごろにかけて、人形頭(生地)製作の研究をした際、(イ)号物件類似の製造型を試作し、これを使用して人形頭(生地)を製造したことのあつたことは、被告代表者本人も、その供述において認めている。

しかし、特定の発明に係る物が、試験又は研究のために製造、使用されたからといつて、それが直ちに、その発明について業としての実施があつたことにならないことは当然であり、また、そのことから、その後業として実施されたことが事実上推定されるものでもない。

従つて、(イ)号物件について本件発明の独占的支配権を主張する原告としては、さらに、被告の(イ)号物件の製造、使用が、試験又は研究の段階を越えて事業として継続的に行なわれた事実を立証しなければならない。

2 ところで、証人花村静夫の証言によると、株式会社磯部調査事務所の調査員である同人は、昭和五一年七月ごろ、被告工場の事務所において被告代表者と面談し、その結果やその他の資料に基づいて作成したのが甲第六号証の調査報告書であることが認められるが、同号証には、被告が人形頭(生地)製作に当つて台型にシリコン製の製造型を係合したものに成型材料として石膏を用いて量産している旨の記載があり、また、花村証人は、右面談の際、被告代表者から製造型と完成した人形頭(生地)の両者の現物を示され、その製造過程の説明を受けた、その製造型は本件発明のものとそつくりであつた等の証言をしている。

しかし、弁論の全趣旨から成立を認める甲第五号証の一、二及び被告代表者本人の供述によると、すでに昭和五〇年一〇月中に、原告側から、被告の取引先である人形頭製造業者の及川博正に対して、本件発明に関して問合わせがあつた事実があり、その後、被告代表者が同業者数名とともに原告を訪ねて本件発明の実施について申入れたが、話合いがつかなかつたこともあつたので、被告代表者としては、花村と面談した際、同人を原告から依頼された特許侵害に関する調査員であると容易に理解したことが認められる(なお、その際、花村が被告の信用調査に来た旨を告げて、被告代表者と名刺を交換していることは、花村証人の証言からも認められる)。

そうだとすると、そのような状況のもとで、被告代表者が、花村に対して、企業秘密ともいうべき製造型を見せたり、製造過程を説明したりするということは、ほとんど想像できないところであつて、この点に関する花村証人の証言の信憑性は、きわめて疑わしい。また、仮に、花村が、被告工場の事務所において製造型あるいは完成した人形頭(生地)を現認した事実があつたとしても、その細部の構成に関する花村証人の証言内容が曖昧であるばかりでなく、専門的な技術知識を有しない花村が、ただ一回の現認だけで、当該製造型の構成が(イ)号物件と同一であることや、それが本件発明の技術的範囲に属することを判断しえたであろうとは、到底信ずることができない。現に、花村証人自身、「シリコンの製造型を使つていること自体が特許(本件発明を指す。)に触れるんじやないかという理解で調査に当つた」と証言して、本件発明に関する技術的理解の浅さを露呈している。

これを要するに、被告の製造、使用する製造型に関する花村証人の証言及び甲第六号証の記載部分は、ともに証拠価値があるとはいえないし、これらによつては、被告が(イ)号物件を製造、使用していた事実を認めることができない。

3 そのほか、被告が昭和四八年以降業として(イ)号物件を製造、販売又は使用した事実を認めるに足りる証拠は存在しない。

そうすると、(イ)号物件が本件発明の技術的範囲に属するか否かを判断するまでもなく、(イ)号物件についての原告の差止及び損害賠償請求は理由がない。

三 原告は、さらに、被告が今後(イ)号物件を製造、使用するおそれがある旨主張するけれども、その事実は、本件の全証拠によつても認めることができない。

従つて、権利侵害予防としての原告の差止請求も理由がない。四 次に、被告が昭和四八年以降業として(イ)二号物件を製造、販売、さらに使用していること及び(イ)二号物件が少なくとも原告主張の(A)´の構成を有することは、当事者間に争いがない。

そして、右構成部分に成立に争いのない甲第八号証並びに(イ)二号物件の図面(〔編註〕省略)及び説明書をあわせると、(イ)二号物件の構成は、次のとおりであることが認められる。

型部分1(顔)、2(頭)より成り、各型部分は、

(A)´ 面3、4側を基盤とする型巣区帯13、14

この型巣区帯は、

(ⅰ)´ シリコンゴムで造られ、

(ⅱ)´ 中央部に得ようとする人形頭(生地)の顔面及び頭の形象に対応する目、口、鼻、耳、毛髪植込溝その他の形象が現わされた型巣5、6を具え、

(ⅲ)´ 型巣の周囲に型巣と一体の面3、4を具えている。

(B)´ 他面11、12側を基盤とする保定区帯15、16

この保定区帯は、上記型巣区帯と一体に形成され、成形材料を型巣に充填した際、変形を起さないようこれを保定するに十分な強度を有している。

を有する人形頭(生地)の製造型

そこで、(イ)二号物件が本件発明の技術的範囲に属するかどうかを検討する。

1 前掲本件発明の要旨及び構成並びに成立に争いのない甲第二号証によると、本件発明において、構成(B)の台型は、「型材を嵌入する大略の型受嵌合部を有する」ものであり、これによつて「顔面型と後頭部型の各々の内部に形成された顔面と後頭部を継合一体化する際、両者が台型とともに締結固定され、上記接合部がずれ動かず正確に硬化継合一体化でき、その出来上りが極めてよくなり、修正の手数が不要になり、台型の型受嵌合部は大略に形成されているから、型材の型巣の形状に関係なく任意に使用ができ、型材ごとに異なつた台型の必要がない上、台型の嵌合部は大略成形で製作に手数がかからず」(公報第四欄三七行~四五行)という特有の作用効果を奏することが認められる。

従つて、型材(構成(A))と台型(構成(B))とが分離可能な別体をもつて構成されることは、本件発明において必須の要件であるといわねばならない。

2 原告は、本件発明において、型材の型巣の外形部が当然型受嵌合部に密着することを前提として、型材(型巣区帯)と台型(保定区帯)を別体としたり、一体としたりするかは微差にすぎない旨主張する。

しかし、前号に摘示したように、本件発明の明細書には「台型の型受嵌合部は大略に形成されているから、型材の型巣の形状に関係なく任意に使用ができ、型材ごとに異なつた台型の必要がない」、「大略成形で製作に手数がかからず」と記載されていることからみて、「大略の型受嵌合部」とは、頭(生地)の形象とは同等の精密さを持たない型材の受入れ部を指すものと解されるから、それが直ちに型材の型巣の外形部と密着するとはいえない。このことは、同明細書に「型材1、1´は………ゴム、合成樹脂を主体とする配合ペースト原料を金属板上に置いた原料と同様に造られた金型の表面上に塗布した後、加熱固化せしめた後金型を外して得られたものであつてもよく」(公報第三欄二行~九行)とあることによつても支持されるであろう(このような製法によつて得られた型材の外形は、不規則なものとなるから、これを台型の大略型受嵌合部に密着嵌合させることは不可能である)。

従つて、原告の主張する前提自体誤つているので、それに基づく主張も失当である。

3 これに対して、(イ)二号物件は、前記のとおり、型部分1、2は、それぞれ、型巣区帯13、14と保定区帯15、16を具えてはいるが、これらの型巣区帯と保定区帯によつて型巣5、6が構成されていることから明白なように、両区帯は、それぞれ一体のものとして型部分1、2を構成するその一部分にすぎない。

従つて、(イ)二号物件における保定区帯15、16(構成(B)´)には、「型材を嵌入する大略の型受嵌合部を有する台型」(本件発明の構成(B))は勿論のこと、それに相当するものも存在しない。

以上のとおりであつて、(イ)二号物件は、本件発明における構成(B)を欠いているから、その余の点について判断するまでもなく、本件発明の技術的範囲には属しない(甲第八号証中、本項の認定ないし判断に抵触する部分は、採用することができない)。

従つて、(イ)二号物件が本件特許権を侵害することに基づく原告の請求は、すべて理由がない。

五 よつて、原告の請求を棄却することとする。

〔編註〕 本件の特許権に関する事項は左のとおりである。

一 原告は、次の特許発明の特許権(以下、「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を有している。

発明の名称 人形頭の製造型

出願    昭和三七年一一月二一日

出願公告  昭和四五年七月七日

登録    昭和四六年五月三一日

登録番号  第六〇七三八三号

二 本件発明の特許請求の範囲の記載

ゴム又は合成樹脂等の可塑性物質で造られ、所期の成型体の形象に応当する型巣及び型巣の周囲に型巣の保定と剥取りを助ける縁部材を具えるフレキシブルな型材とその型材を嵌入する大略の型受嵌合部を有する台型とを具備して成る人形頭の製造型。

三 本件発明の構成

(A) フレキシブルな型材

この型材は、

(ⅰ) ゴム又は合成樹脂等の可塑性物質で造られ、

(ⅱ) 所期の成型体の形象(人形頭)に応当する型巣を具え、

(ⅲ) その型巣の周囲に型巣の保定と剥取りを助ける縁部材を具える。

(B) 台型

この台型は、前記の型材を嵌入する大略の型受嵌合部を有する。

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